イノセンス スタンダード版 [DVD]

イノセンス スタンダード版 [DVD]

一度目は一人で、二度目は友達と一緒に見た。
やはり非常におもしろかった。
以下、話した内容を簡単なレビューにまとめたもの。(ネタバレ含む)

イノセンス』は自己満足的なアニメーションだ。たとえば、本作では全編にわたって聖書やデカルトに代表される哲学等アカデミックな思想の引用を多用している。視聴者向けにも、自己満足、もとい経験経済的な楽しみを前面に押し出している。
イノセンス』は、もともとニッチマーケット向けの作品であろう(これは今までの押井作品全般にわたって言えることだが、本作は特に)この作品を楽しむためには、まず前作の「攻殻機動隊 Ghost in the shell」やコミックの「攻殻機動隊」などを見て、前知識を十分に持っておくこと、また必要最低限の教養を持っていることは大前提である。こういった前提なしに、初めて本作を見た人は独特の雰囲気や、「電脳」や「義体」などの固有の専門用語の連続に間違いなく戸惑うことだろう。(この問題はDVDではよくまとまったイントロダクションが用意されており、ある程度解消されてはいる)それなのに、あたかも一般向けの作品であるというようなマーケティングを行ったことにはこの映画の最大の失敗である。

イノセンスの第一の売りといえば美麗なCGだろう。だがテレビゲームや洋画のCGなどに慣れきってしまっている視聴者にとっては、どんな映像を見せられてもはっきりいって手法だけで感動を与えるのは難しい。『イノセンス』では、CGが持つ美しさだけではなく、どんなに本物に近く見えても本物でないという感覚、違和感を逆手にとった見事な演出に成功している。たとえば、後半の擬似迷路の場面。その少し前の択捉特区に入る場面で、長時間のCGを見せ、視聴者の意識は酩酊とする。そして、ぼーっとした感覚のまま次の場面で、擬似迷路の話をはさみ、なにが本当でなにがうそなのかわからなくなる感覚へ誘い込む。これは、本作の主題のひとつである人間の魂=『ゴースト』の重要性を暗示する非常にユニークな演出であった。

攻殻機動隊」全編にわたってバトーの貫通行動であるところの「純愛」もクローズアップされていた。バトーというパッと見、格好よくもなく、スタイリッシュでもない中年の男性を主人公にしているところもこの作品の面白みである。このバトーの草薙素子への愛は、最後の場面での別れにより結末を迎えるが、一方で素子が残した最後の言葉により救われる。これは、前作の終わり方と同じ構造になっており、非常に皮肉的に感じる。